サンゴジュの果実
前回に引き続き、サンゴジュの、今度は果実について紹介しておこう。写真は10月初めに撮影したもので、大きな果実序(花序)にたくさんの果実を着けている。果実は最初、赤色になるが、その後、熟したものから順次、黒色(暗紫色)に変化していくのが特徴である。そのため、果実序は赤色の果実の中に、黒色の果実が混じった状態となる。
果実は楕円形である。黒色に変化した果実はじきに水分を失い、果実の基部に離層が形成されて落下する。
樹の下には、黒色のしなびた果実がたくさん落ちていた。
ガマズミ属の花の多様性については2020年5月18日のブログで簡単に紹介したが、今回は果実の色の多様性とその意味について紹介しよう。
ガマズミ属では、果実序に着いた状態で果実の色が赤色から黒色に変化する種が多数、見られる。日本産の種では、サンゴジュのほかオオカメノキ、ヤブデマリ、ゴマキ、ゴモジュ、ヤマシグレなどがこのような色の変化を示す。果実序に赤色と黒色が混じることで、鳥類が好む色の組み合わせ(二色効果)を演出し、鳥類を惹きつける効果があると考えられる。また、鳥類に熟した果実を指し示す役割もあるのだろう。サンゴジュの場合、黒熟した果実の基部には離層が形成されて落ちやすくなる。これは鳥類が採食しやすくする効果もあるだろう。
一方、ガマズミのように果実の色が変化しない種も多数、見られる。果実は赤熟し、そのまま変化しない種としては、ガマズミのほかカンボク、オトコヨウゾメ、ハクサンボク、コバノガマズミ、ミヤマガマズミなどがある。また、チョウジガマズミは最初から黒色に熟し、キミノコバノガマズミのように最初から黄色に熟す種もある。また、日本には分布しないが、最初から青色に熟す種もある。これらの種の果実の基部には離層が形成されないまま、長期間、果実序についていることが多い。
最近の研究(Sinnot-Armstrong et al. 2020)で、ガマズミ属の果実の色と系統、果実の栄養価には関連があり、色が変化するグループの種から色が変化しないグループの種が分化し、さらに後者の中で、果実の色が果実の栄養価と関連しながら多様化していったと考えられている。ガマズミ属の様々な色の果実の中で、赤色の果実が最も水分に富むが脂質は少なくて低栄養価であり、青色の果実が最も脂質に富み、高栄養価であることがわかっている。
このような果実の色は、それを食べる鳥類の種類に適応して進化したもので、色が変化するグループは、その地域に長期、滞在している留鳥、色の変化しないグループは季節移動を行う渡り鳥によって採食されることが多いと推定されている。
サンゴジュとガマズミについて、この仮説があてはまるか検討してみると、サンゴジュはガマズミよりも早く、初秋に熟し、留鳥のメジロによってよく採食されることが報告されている。一方、ガマズミは晩秋から初冬まで多くの果実が残存し、ツグミなどの渡り鳥によって短期間に採食されることが報告されていて、仮説にうまく当てはまるように思える。
果実の熟期が同一植物内で同調せず、果実序に異なった色の果実が付いているパターンと、果実の熟期が同調して同じ色の果実が長期間ついているパターンは、ガマズミ属に限らず様々な植物で見られる現象である。それぞれの種の果実、特に液果がどのような鳥類、動物によって採食されているかを丹念に調べていけば、生物群集レベルでの植物と鳥類、動物との関係が見えてくるだろう。
Sinnot-Armstrong, M. A., C. Lee, W. L. Clement and M. J. Donoghue. 2020. Fruit syndromes in Viburnum: correlated evolution of color, nutritional content, and morphology in bird-dispersed fleshy fruits. BMC Evolutionary Biology 20:7.